池田信夫氏の『失敗の法則』を読みました。
本書では日本人特有の失敗する理由が8つの法則にまとめられています。
私は本書を読んで、「『失敗の法則』の8つの法則で、日本の組織(日本政治、日本の行政、日本企業、日本のスポーツ界・・・などなど)の失敗の99%は説明ではないか」と納得させられました。
ここから、本書の内容の紹介と、私の考えを述べていきたいと思います。
(本書の内容の紹介は、私の言葉で言い換えている箇所が多分にありますので、ご了承ください。)
第1法則:現場が強いリーダーを許さない
本書の内容をまとめると
本書では、東芝の西田厚聰元社長を取り上げています。
西田元社長は、マックスウェーバーのいう「カリスマ的支配」で指導力を発揮するタイプの経営者だったそうです。
日本社会はカリスマ的支配を嫌う風土にあり、東芝も例外ではないのですが、その中でも西田元社長は異質な存在だといえます。
最終的に、カリスマ的支配を嫌う現場の内部告発により、西田元社長は失脚することになります。
私見
今日本でいちばん「カリスマ的支配」で叩かれているのは、安倍首相ですね。
安倍首相は、選挙という民主主義的なプロセスで選ばれている(しかも在任中に何度か選挙は行われている)はずなのに、「独裁者」という批判をする人が多いですね。
ベンチャー企業(スタートアップ企業)にいても、カリスマ的支配を嫌う風土はあります。
ベンチャー企業が成功するためには大企業にないスピードが重要で、それこそ経営者のカリスマ的支配が必要です。
しかし、それを「ワンマン経営」など陰口をたたく従業員がいるのもまた事実です。
日本では「強いリーダー」が足を引っ張られる、という法則は覚えておく必要があります。
第2法則:部分が全体を決める
本書の内容をまとめると
本書では、現代の霞が関(日本の行政機構)と戦前の日本軍について取り上げています。
霞が関は各省の権力分立で互いに牽制しています。だから、法律1つを作るにしても、各省庁の合意なくして成立しません。つまり、各省庁に法律案の拒否権がある状態です。それが、「合議(あいぎ)」や「稟議」という意思決定の仕組みに表れています。
また、戦前は軍部大臣現役武官制という慣行のおかげで、軍に内閣に対する拒否権を持たせてしまい、軍部の暴走を抑えることができなくなりました。
組織のトップに指導力はなく、組織の「部分」が拒否権を持つことが、日本の組織の特徴です。
こうして、全体最適よりも部分最適化が優先されていきます。
私見
日本企業が海外企業に対してスピードが劣る理由は、「稟議」という仕組みにあると考えています。
「稟議」という仕組みは、社内の様々な人の意見を集めて、より良いものを作っていこう、という目的ではありません。
「稟議」という仕組みは、社内で責任を分散させて、責任の所在をあいまいにするための制度です。
日本企業が、世界で勝てない無難な製品・サービスしか生み出せない理由の一つは「稟議」という仕組みにある、と私は考えています。
ところが、日本で会社が上場審査をパスするためには、「稟議」の仕組みがきちんと運用されているかどうかが重要な審査ポイントになっています。
上場というのは、企業が成長のための資金を得る手段だと思うのですが、・・・成長を妨げる「稟議」を重視するとは・・・実に馬鹿馬鹿しいですね。
第3法則:非効率を残業でカバーする
本書の内容をまとめると
本書では、まず、2015年の電通社員の長時間労働(残業)による過労自殺について取り上げられています。
仕事がつらいならやめればいいのに、といいたいところですが、長時間労働(残業)を良しとし、退職・転職を良しとしないのが日本社会です。
その起源は、江戸時代の農業にあります。日本の狭い土地で農業の生産性を上げるためには、農民を農地にしばりつけ長時間耕作させる必要がありました。農民には、労働集約的な「勤勉」で生産性を上げることを良しとする価値観が植え付けられました。農民は死ぬまで他の農民と一緒に農村で暮らし続けなければなりません。怠け者は、村八分にされます。(この説明は、速水融氏の「勤勉革命」という理論にもとづいています。)
このような勤勉を重んじ、裏切りを許さない価値観が、今の日本に続いています。
長い時間同じ場所で働き続けることは、暗黙知(共有知識)の共有ができるという点において、製造業がメインだった時代にはメリットがありました。しかし、サービス業の比重が高まりつつある現代においては、長い時間同じ場所で働き続けることのメリットはありません。つまり、今行われている残業は、無駄なのです。
私見
農業技術が発達すると人間の労働を牛馬に置き換えるのが普通ですが、日本の江戸時代では逆に牛馬を人間の労働に置き換えた、そうです。
これって、今の日本をみているようです。
財界は、労働力不足を技術の導入ではなく、外国人移民で補おうとしています。
どうして、人力にこだわろうとするのでしょうか。
あほすぎる。
第4法則:「空気」は法律を超える
本書の内容をまとめると
本書では、原発と電波行政について取り上げています。
日本の官民関係は、お互いの「貸し借り」によって成り立っています。
「貸し借り」を繰り返しているうちに作り上げられてきた「暗黙知」(空気)によって、日本の社会は支配されていきます。
そのため、暗黙知を熟知する情報優位の官僚が、日本の民を支配しているといえます。
国民に選ばれた政治家は情報劣位のため、官僚をコントロールできません。
私見
官民の癒着は、日本に限ったことではありません。
アメリカでは、民間企業から政府、政府から民間企業への転職は当たり前のように繰り返されています。
中国では、民間企業は中国共産党の支配下にあります。
国民が行政をコントロールする国民主権は、どの国にも存在しないのですね。
「空気」が支配する、という点では、日本企業も同じです。
日本企業で仕事をしていくためには、お互いに貸し借りを繰り返して暗黙知(空気)を共有することが重要です。日本企業での判断基準・行動基準は、会社によって利益になるかではなく、空気に従っているかどうかです。だから、その会社に長年勤めている人が有利で、中途入社した人は不利なのです。
こういう状況は、外国人からみれば、日本人は何を考えているか分からない、と奇妙に映るのですね。
第5法則:企業戦略は出世競争で決まる
本書の内容をまとめると
本書では、朝日新聞を取り上げています。
朝日新聞では、左翼的な社会記事を書いた人が評価されます。
このような組織の「空気」の中で、慰安婦強制連行という誤報が生まれ、しかも20年以上も誤報が放置されていったのです。
出世するために必要なことは、成果を上げることではなく、人事評価をする上司の意向に従うことです。
高い人事評価を得るためには、組織の「空気」を読めることが重要です。
こうして、出世した人が企業戦略を決めるのですが、その企業戦略もまた「空気」に従ったものになるのです。
私見
日本企業では、成果を上げた人ではなく、組織の「空気」に従った人が出世していき、企業戦略を決めていくのですから、世界で勝てるわけがないですね。
第6法則:サンクコストを無視できない
本書の内容をまとめると
本書では、核燃料サイクルについて取り上げています。今まで費やしたコストを考えると、使用済み核燃料の処理をやめるとは言い出せない、という政府と電力会社の問題先送りについて取り上げています。
また、小池都知事の豊洲市場移転延期問題についても、取り上げています。
私見
「もったいない」の精神で、合理的な判断ができない日本の指導者・経営者たち。
そうならないために、彼ら・彼女らを反面教師にする必要があります。
第7法則:小さくもうけて大きく損する
本書の内容をまとめると
本書では、日本の銀行や証券会社などの金融機関がかつて先送りしてきた、不良債権問題について取り上げています。
アメリカと違い、日本では一度「失敗」すると「やり直せない」ので、失敗が明るみに出ないよう問題の解決が先送りされる傾向にあります。
私見
日本においても、実際は、失敗してもやり直せた事例はいくつもあります。
だから、失敗をおそれずに挑戦していく精神を持つことが大切です。
ただ、他人が先送りしてきた問題を引き受けることは避けたいですね。
ちゃんと責任は、原因を作った人に取らせましょう。
第8法則:「軽いみこし」は危機に弱い
本書の内容をまとめると
日本の歴史を見ていくと、天皇は政治のトップでありながら権力が弱い、というのがほとんどの時代にありました。
政治に限らず、日本の組織は実質的な権力を現場が握り、トップの権力は形骸化していることが多いです。
トップに指導力がないから、緊急時には何も決まらず物事が進みません。トップが形骸化している日本的なシステムは、危機に弱いのです。
私見
ITの世界で成長著しい中国企業や韓国企業がトップダウン型でスピードをもって経営しているのを見ていると、日本の組織のダメダメな部分が見えてきて、悲しくなっていきます。
エピローグ
本書の内容をまとめると
ソフトバンク創業者の孫正義氏について取り上げています。
彼が成功した理由は、「空気」を読まないからです。
「空気」を読む人が多い日本社会では、「空気」を読まないで行動できる人は競争相手がいないに等しいからです。
私見
「空気」を重んじる日本社会で、「空気」を読まない人が成功するというのが逆説的で面白いです。
起業と言えばシリコンバレーが注目されますが、著者は、孫氏がシリコンバレーで起業していたら成功しなかったであろう、といっています。
ある意味で、日本にもチャンスがあふれている、ということですね。